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中東情勢の緊迫化を契機に見直すBCP

石油掘削用の油井やぐら(イメージ)


中東情勢とBCP


BCPといえば地震や台風のような自然災害や、コロナ禍以降特に顕在化した感染症リスクに対するものを中心に考えがちかもしれません。しかし、事業継続を脅かす要因はそれらだけではありません。内閣府の「事業継続ガイドライン」でも、事業継続はサプライチェーンを意識しながら取り組むべきものとされており、想定リスクを自社の実態に応じて整理することの重要性が示されています。BCPは、単なる「災害時の対応手順」ではなく、事業を止めないための経営上の備えとして捉える必要があります(1)


そう考えると、最近の中東情勢の緊迫化も、企業にとって無関係ではありません。外務省は2026年3月の注意喚起(2)で、攻撃の応酬が続くなか、湾岸諸国等で空域・空港の閉鎖が生じ、多くの国でフライトのキャンセルや遅延が発生していることを案内しています。海外出張や駐在、海外の現地取引先とのやり取りがある企業にとっては、人の移動や安全確保そのものがBCP上の論点になっています。


なぜ日本企業へ波及しやすいのか


さらに、日本企業はエネルギー面でも中東情勢の影響を受けやすい構造にあります。資源エネルギー庁によれば、日本の2023年度の原油輸入に占める中東依存度は94.7%でした(3)。また、同庁の資料では、ホルムズ海峡が世界の石油・LNG輸送における要衝であり、そこに支障があれば、価格や供給に影響が出ることが示されています。つまり、中東情勢の変化は、燃料価格の上昇だけでなく、輸送コスト、納期、調達計画の見直しといった形で、国内企業の日常業務にも波及し得るということです。


実際、資源エネルギー庁は今月、「イラン情勢等を踏まえた資源エネルギー庁の対応について」として関連情報を集約し、石油製品の供給に関する情報提供窓口を設けています(4)。同ページでは、石油備蓄やLNG在庫の現状や、中東地域からの供給に支障が生じる場合の対応方針も示されています。国がこうした情報発信を行っていること自体、企業側も「様子見」ではなく、自社への影響経路を具体的に点検すべき局面に入っているといえるでしょう。


BCP見直しのポイント


こうした状況を踏まえると、企業が見直すべきなのは、BCPの文言そのものというよりも、影響が出たときに迷わず動ける“運用”ではないかと思います。経済産業省が今年1月に公表した「経済安全保障経営ガイドライン」でも、重要な原料・製品・サービスについて平時からリスクシナリオや対応策を検討し、途絶するリスクが高いものについて代替や使用の合理化を含めた対応を考えること、さらに、リスクが実際に発現した際に経営層が関連部門へ直接指示できる体制を構築することが有用だと示されています(5)


具体的には、主要な原材料や製品の調達経路を把握し、代替の調達先・輸送手段の有無、切り替えに要する時間を確認しておくこと、価格高騰や納期遅延が起きた場合の判断基準を決めておくこと、海外にいる関係者(出張者・駐在員・現地取引先 etc.)との連絡体制を複数用意しておくこと、そして調達・物流・営業・総務などの関係部門の間で「どの情報を見て、誰が、どの段階で対応方針を切り替えるか」を共有しておくことが重要になってきます。


おわりに -BCP見直しの本質-


以上のようなことを考えると、今回のような地政学リスクをきっかけに企業が点検すべきことは、案外シンプルといえるかもしれません。主要な調達経路は把握できているか。代替手段は整理されているか。人の安全・安否の確認と連絡体制は機能するようになっているか。価格高騰や遅延が起きたときに判断する人と判断基準は明確か。こうした問いに答えられる状態をつくっていくことこそが、本質的にはBCP見直しだと言えるでしょう(その結果として、BCPの文言を書き換えたりアップデートすることは十分にあり得ると思われます)。遠い地域の出来事だからと判断を先送りにせず、自社の調達・物流・ヒト・意思決定に引き寄せて考えることこそが、今求められているBCP運用の見直しの第一歩といえるのではないでしょうか。


参考文献


(1) 内閣府(防災担当)(2023)「事業継続ガイドライン(令和5年3月)」

(2) 外務省 海外安全ホームページ (2026/3/12)「中東情勢の緊迫化に伴う注意喚起」

(3) 資源エネルギー庁 (2025)「エネルギー動向(2025年6月版)」

(4) 資源エネルギー庁 (2026)「イラン情勢等を踏まえた資源エネルギー庁の対応について」

(5) 経済産業省 (2026)「経済安全保障経営ガイドライン(第1版)」

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