10月16日の緊急地震速報「誤発表」はなぜ起きたのか ―― 過大予測と防災上の課題

2026年10月16日(金)12時40分、北海道から中部地方にかけて広い範囲を対象に緊急地震速報(警報)が発表されました。千島列島を震源とするマグニチュード(M)9.9の巨大地震が発生したと推定し、最大震度7の揺れを予測したものです。
しかし、実際に発生したのはロシア・カムチャツカ半島付近を震源とするM6.9の地震で、国内で観測された最大震度は北海道函館市の震度1でした[1]。気象庁は12時48分に緊急地震速報を取り消し、後に過大予測の原因を公表し緊急対策を行いました。緊急地震速報(警報)の取り消しは初めての事例になります[2]。
今回の「誤発表」は、地震そのものが発生していなかったわけではありません。地震は実際に発生したものの、著しく過大に推定したものです。さらに、携帯電話への緊急速報メールの配信などに関する課題も浮かび上がりました。
緊急地震速報はどのような仕組みなのか
緊急地震速報は、地震の発生を事前に「予知」するものではありません。
地震が発生すると、比較的速く伝わる「P波」(Primary Wave) と、それより遅く伝わり強い揺れをもたらす「S波」(Secondary Wave) などが発生します。先に到達するP波を地震計で捉え、震源の位置やマグニチュード、各地の予想震度などを素早く計算し、強い揺れが到達する前に知らせる仕組みです。
気象庁では、原則として2地点以上の地震観測点で地震波を観測し、最大震度5弱以上、または長周期地震動階級3以上を予想した場合に、一般向けの緊急地震速報である「緊急地震速報(警報)」を発表します。なお、警報の基準に満たなくても「最大震度3以上、または長周期地震動階級1以上、または推定M3.5以上」に達する場合は「緊急地震速報(予報)」として発表されます。(弊社がPREP・ゆれくるコール等のアプリを通じて配信しているのは、緊急地震速報(予報)になります。)
地震発生から情報発表までの時間を短くするため、限られた観測データから迅速に予測を行う必要があります。そのため、特に初期段階では震源や規模の推定に誤差が生じることがあります。また、震源に近い地域では情報の受信が強い揺れに間に合わないこともあります。
なぜM9.9という過大予測が発生したのか
今回の過大予測について、気象庁は10月16日に調査結果を順次公表しました。
まず、日本から非常に遠い場所で発生した地震に対して、国内用のマグニチュード算出式を適用していました。また、マグニチュードの計算と震度の予測に用いた震源の位置が異なっていたことも判明しました[3]。
さらに、過去の過大予測を受けて導入していた対策が、正常に機能していなかったことも明らかになりました。
2020年7月30日の鳥島近海の地震でも、実際の揺れを大きく上回る緊急地震速報が発表されました。これを受けて気象庁は、震源から700km以上離れた観測点をマグニチュードの計算に使用しない対策を導入していました。しかし今回、この機能が正常に動作せず、遠方の観測データを用いてM9.9と過大に推定したことが原因の一つとなりました。
気象庁は同日21時30分ごろに緊急対策を実施し、詳細な原因については引き続き調査するとしています[4]。

(画像出典:気象庁報道発表資料「令和8年10月16日12時40分に発表した緊急地震速報(警報)について(第3報)」より抜粋)
過去の事案を踏まえた対策が期待どおりに機能しなかった点は、今後の検証における重要な課題といえます。
また、緊急地震速報の発表に用いられる観測点は、日本国内にしかありません。今回の震源域はこの観測網の外にあることから、そもそも十分な予測精度が確保しづらいということにも留意が必要です。

(画像出典:気象庁ホームページ「緊急地震速報のしくみ」より「地震の発生を素早くとらえる観測体制」)
緊急速報メールにも浮かび上がった二つの課題
今回の事案では、気象庁の予測だけでなく、携帯電話への一斉配信に用いられる緊急速報メール(エリアメール)にも問題が生じました。
一つ目は、NTTドコモのエリアメールが配信されなかった問題です。
同社によると、気象庁から受信したデータが従来と一部異なる形式だったため、ドコモ側のシステムが正しい情報として認識できず、本来配信されるはずのエリアメールが利用者に届きませんでした[5]。
今回は幸いなことに強い揺れは発生しませんでしたが、実際に大地震が発生していた場合、警報の不達は大きな問題にもなりかねません。
二つ目は、警報の「取り消し」通知でも、発表時と同じ警報音が鳴ったという課題です。
KDDIやソフトバンクなどでは緊急地震速報が緊急速報メールで配信されましたが、約8分後に「取り消し」の情報が出た際にも、最初の警報と同じ大きな警報音が鳴ったという報告が多く挙がりました。
緊急地震速報の警報は、直ちに身を守る行動を促すためのものです。一方、取り消し報は先に発表された警報が無効になったことを伝えるものであり、両者は性格が異なります。もちろん「取り消し」の情報も発表と同じように重要ではありますが、同じ通知音でよいかについては十分に検討する必要があるかと思われます。
気象庁も今回の会見で、取り消し報の通知音について、現時点で実施の有無については言及しないとしつつ、「必要に応じて検討は行うべき」との考えを示しています[6]。
緊急地震速報に今後どう向き合うべきか
今回、幸いにも国内では大きな揺れは観測されませんでした。しかし、仮にこのような過大予測が繰り返されれば、「また誤報ではないか」と警報を軽視する人が増えることも懸念されます。
緊急地震速報は、限られた時間と観測データから予測する仕組みであり、技術的な限界があります。一方で、今回のようなシステム上の問題による過大予測は、その限界とは別問題として、十分な検証と改善が図られる必要があります。
また、一部では今回予想されたのがマグニチュードが9.9とあまりにも巨大で、東日本大震災(2011年東北地方太平洋沖地震)のM9.0を大きく上回るため(エネルギー量で比較すると約23倍)、「そんな地震はありえないとわかった」といった声も挙がっています。しかし、過去には東日本大震災を超える規模の地震も発生していますし、今後も東日本大震災級の地震が起きないとは限りません。
緊急地震速報が発表された際には、まず身の安全を確保することを原則にしてください。特に、遠方の地震の場合は揺れの到達まで時間がかかります。揺れを感じないからといって直ちに誤報と判断せず、気象庁からの続報やその他の情報を確認することが大切です。
緊急地震速報は、元の情報を発信している気象庁の予測精度の向上だけでなく、携帯キャリアや各事業者を通じて情報が確実に届き、取り消しなどの続報も正確に伝わること、さらに受信者が情報の意味を適切に理解し行動につなげるという一連の流れが大切になります。今回の事案が、緊急地震速報を始めとする防災に関するコミュニケーションのあり方を議論し、改善していくための契機になることを期待します。
脚注・出典
[1] この地震により、ロシア国内では、カムチャツカ地方の都市で日本の震度階級で2〜3程度の揺れ(SHSI-17震度階級 4〜5)を観測しています。
(ロシア非常事態省 (2026/10/17) 「ОПЕРАТИВНЫЙ ЕЖЕДНЕВНЫЙ ПРОГНОЗ ЧС на 18 октября 2026 г.」<https://41.mchs.gov.ru/deyatelnost/press-centr/vse_novosti/5843984> )
[2] 読売新聞 (2026/10/16)「M9・9発生と発表の緊急地震速報「初の取り消し」…気象庁は3回の会見で謝罪、サイバー攻撃は否定」<https://www.yomiuri.co.jp/national/20261016-GYT1T00323/>
[3] 気象庁 (2026/10/16)「令和8年10月16日12時40分に発表した緊急地震速報(警報)について(第2報)」<https://www.jma.go.jp/jma/press/2610/16c/202610161730.html>
[4] 気象庁 (2026/10/16)「令和8年10月16日12時40分に発表した緊急地震速報(警報)について(第3報)」<https://www.jma.go.jp/jma/press/2610/16d/202610162240.html>
[5] NTTドコモ (2026/10/17)「【お詫び/対応完了】緊急地震速報(緊急速報「エリアメール」)が配信されなかった事象について(10月17日午後7時04分時点)」 <https://www.docomo.ne.jp/info/notice/page/261017_01_m.html>
[6] ITmedia Mobile (2026/10/17)「緊急地震速報の「取り消し報も大音量」――爆音との声SNSに 気象庁「必要に応じて検討は行うべき」」<https://www.itmedia.co.jp/mobile/articles/2610/17/news017.html>




