今日、東日本大震災の発災から5年を迎えました。震災により亡くなられた方々へ改めて哀悼の意を捧げます。そして、被災されたすべての方に心からお見舞いを申し上げます。
地震のあった5年前、2011年3月11日午後2時46分、私は西新宿にある会社の自席で仕事をしていました。私の机にはテスト用のiPhoneが置いてあり、ゆれを感じる数十秒も前からゆれくるコールの警告音がけたたましく鳴り出したので、大きな地震が発生したことをいち早く知りました。予想震度は4と表示(その後、新宿では震度5弱のゆれであったと発表されました)されていたので、椅子に腰掛けたまま、ゆれが収まるのを待ちました。幸いにも、社内では怪我をした社員もなく、何かが倒れて散乱するような状況にもなりませんでした。驚かされたのは、青梅街道を挟んで向かい側にそびえ立つ高層ビル群がグラグラとゆれている様子を目にしたことでした。
しばらくして、ゆれくるコール担当取締役から、利用者急増によりサーバの運用状況が逼迫しているとの報告を受けました。不具合もあり、不正なデータが蓄積されてハードディスクを圧迫する問題も発生しました。社員総出で対処を施し、運用を維持しました。余震が発生しているにも関わらず、机の上のiPhoneが静かなままであることにも気がつきました。気象庁から緊急地震速報が発表されなくなったのです。連絡を取ると各地の地震計の被害が大きく障害が発生しているが、何よりも津波の対応を最優先するので待ってほしいと伝えられ、尋常ではない状況になっていることを承知しました。
その日は徹夜で対応を続け、サーバの運用を維持し緊急地震速報の配信を確認して、翌日の昼過ぎには社員も私も、一旦、帰宅することとしましたが、サーバ増設のための手配やその資金繰り、そして被災地出身の社員との連絡と、週末も仕事は続きました。週が明けてからも夜遅くまで仕事に追われ、社員との泊まり込みもありました。そんな状況の中で私の踏ん張りを支えてくれたのは、利用者からのアプリに対するレビューやメールでの励ましの言葉でした。中でも、被災地で看護師の仕事をされている方からの、「iPhoneをポケットに入れてがんばっています。」との書き込みは忘れることがありません。5年を経た今も、その時の気持ちを忘れることなく、ゆれくるコールをよりよいサービスにしようとがんばっています。
私は2002年にこのアールシーソリューション株式会社を起業しました。設立当初から、新しいITサービスを生み出そうと試行錯誤しながら開発を続けていましたが、鳴かず飛ばずの状況でした。開発を受託したシステムを危機管理産業展に出展したことをきっかけに、防災とITを結びつけられないだろうかとの考えが頭の隅に残り、2006年に緊急地震速報の開発に着手し、2007年10月の気象業務法改正に合わせて事業を開始しました。緊急地震速報ではパイオニアの1社です。もっとも、事業そのものは苦戦を強いられ開発を続けることはたいへんでしたが、特長のある技術への取組や防災分野でのITの活用に、事業の成功を感じていました。当時は一般的ではなかった「減災」という考えを取り入れた最初のIT企業であったとも自負しています。
ゆれくるコールの名付け親も社員なら、スマートフォンアプリを開発しようと提案したのも社員です。一緒に仕事を続けてくれる社員の協力もあって、事業を継続することができました。
スマートフォン向け緊急地震速報アプリをリリースしたのは2010年11月です。私は、緊急地震速報をもっとも簡単に、安価に受信することができ、安全、安心につながるサービスを提供したつもりでいましたが、当初の利用者はまったく異なる反応を見せていました。5秒後に震度3のゆれがくるといった知らせが、リアルだけれど不思議な体験で「おもしろい」と感じられたようです。大手通信事業者の有名な社長が「ゆれくるキターーーーーーーー」などとツイートしたことは最たる例です。そのおもしろさに10万もの人が手にしてくれて、その結果、東日本大震災の際、「安心できる」との口コミにより、さらに多くの人に使っていただくことにつながりました。漫画を掲載したり、歌を発表したり、機能向上とは異なる取組をしてお叱りをいただくこともありますが、おもしろいこと、たのしいことを提供することで身近においていただき、それがいざという時の安全、安心につながることと考え、このような取組も行っていることをご理解願います。利用者1万人を想定して開発を始めたシステムは、現在は利用者500万人、スマートフォンだけでなく各種の通信機器等へ緊急地震速報を配信しています。この間、常に性能の向上に努めてきました。また、震災後、直ちに英語化に対応したり、目の見えない方や小さなお子さんを持つ方からの音声に関わる要望にお応えしたこともあります。怠ることなく、機能の改善に取り組んできたことも報告させていただきます。
私はまだ、震災後の東北を訪ねていません。さくらさくコールを提供して、東北へ花見に行こうとの呼びかけに協力しているにも関わらず、です。震災をきっかけにゆれくるコールの利用者が急増して、新たな事業を考える機会ができました。ゆれくるコールを提供している企業として、本来なら収益を被災地の支援に提供させていただかなければならないのですが、事業そのものは厳しい状況が続いたままで、願ったようにはなりません。ゆれくるコールはアプリを起動しないまま緊急地震速報のお知らせを受け取ることができるので、広告による収入はそれほど多くはありません。開発費を調達するのに苦心する毎日です。ご支援やご厚意によるご協力、何よりも社員の理解と努力により運用の継続を図っているのが実情です。それでも、なお、新たな機能の開発を行い、サービスの継続に努めるのは、多くの人にゆれくるコールを手にしていただくことが、大地震が発生した際の被害の軽減に必ず役立つと考えているからです。
ゆれくるコールの事業をしっかりとしたものにすること、そして、もしも大災害が発生した時には被災された方への生活や就学支援に会社の利益を還元できるように会社を成長させることが、私がいの一番にすべきことと考えています。それからでないと、東北へはお伺いできない、そんな気持ちでいます。
社員一丸となって、ゆれくるコールをご支持いただいている皆さまのご期待に応えるために、次の3つの取組を優先して実行していきます。
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さらなる性能向上を図って通知に要する時間を短縮して、緊急地震速報を皆さまのもとにお知らせします。
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皆さまからお寄せいただいた「みんなの声」に耳を傾け、機能の改善や新たな機能を開発します。
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大地震が起きた時、安全・安心にお役立ていただく情報を発信・収集するサービスを実現します。
ゆれくるコールはサービスの質を落とすことなく無料での提供を継続します。より一層の機能、サービスの向上を図った上で、皆さまのご理解をいただき、一部の機能は引き続き有料にて提供させていただくこともあるかと思いますが、その際はご容赦いただきますよう、お願いいたします。
震災から5年を迎えましたが、あの日のことを決して忘れることなく貴重な教訓として、災害への備えにお役立ていただける
サービスを提供する日本を代表する会社となるよう、日々、努めて参ります。
引き続き、ゆれくるコールをご愛顧いただきますよう、よろしくお願い申し上げます。
2016年3月11日
アールシーソリューション株式会社
代表取締役 栗山 章